ヘルペスとは

ヘルペスとは、ヘルペスウイルスによる感染症を指します。元々「ヘルペス(Herpes)」とはギリシャ語で「這う」という意味で、皮膚を這うように症状が広がる疾患全般を指す言葉でした。しかし、現在では主に単純疱疹や帯状疱疹といった特定の感染症を指すことが一般的です。

また、ヘルペスウイルスには複数の種類が存在し、種類によって症状や発症部位が異なります。例えば、唇や口周りに症状が現れる「口唇ヘルペス」、性器周辺に現れる「性器ヘルペス」、神経に沿って帯状に発疹が出る「帯状疱疹」などがあります。それぞれのヘルペスには異なる原因があるため、症状に応じた適切な治療が必要です。

一度ヘルペスウイルスに感染してしまうと、治った後もウイルスが体内に潜伏し続けます。そして、免疫力が低下した際に再発してしまう可能性があるのです。現在、体内に潜伏するヘルペスウイルスを完全に除去する方法はありません。しかし、適切な治療や予防策を行うことで、症状を軽減したり、再発を抑えたりすることができます。ヘルペスに関する正しい知識を身につけ、適切な予防・対処法を把握しておくことが重要といえるでしょう。

ヘルペスの症状・特徴

ヘルペスの症状・特徴
ピリピリやチクチクとした痛みが生じる
患部が赤く腫れる
リンパ節が腫れて痛みが出る
小さな水ぶくれが複数できる
発熱や倦怠感などの全身症状が出る場合もある

ヘルペスは上記のような症状がよく見られますが、ウイルスの種類や年齢、初感染か再発かなどの条件によって症状が異なります。また、通常は1~2週間で自然に治癒しますが、症状が重い場合は治るまでに1か月程度かかることもあります。ヘルペスの症状には個人差があり、条件によって異なることを理解しておきましょう。

成人後に初感染すると重症化のリスクが上がる

成人後に初めてヘルペスウイルスに感染すると、重症化するリスクが高まるといわれています。以前は、ヘルペスウイルスを保有する親族と幼少期に接触することで感染するケースが多く、その場合はほとんど気づかない程度の軽症で済むことが一般的でした。しかし、近年はヘルペスウイルスに感染している人と幼少期に接触していることが少なくなり、成人後に初めて感染するケースが増加しているのです。

成人後に初めてヘルペスが発症した場合は、患部の痛みや腫れだけでなく、頭痛や発熱なども伴う可能性があるため注意が必要です。速やかにクリニックを受診し、適切な治療を受けましょう。

ヘルペスではなく帯状疱疹の可能性がある

ヘルペスと帯状疱疹はどちらもヘルペスウイルスが原因ですが、ヘルペスウイルスの種類が違います。口唇ヘルペスや性器ヘルペスの原因が「単純ヘルペスウイルス」であるのに対し、帯状疱疹は「水痘・帯状疱疹ウイルス」によって引き起こされます。

帯状疱疹の特徴は、神経に沿った帯状の水ぶくれや発疹が発生し、強い痛みを伴う点です。ヘルペスは局所的に症状が出ることが多いのに対し、帯状疱疹は広範囲にわたって発疹が発生することが多く、痛みが数週間から数か月間続くこともあります。

ヘルペスと帯状疱疹には上記のような違いがありますが、顔面に帯状疱疹が現れた場合はヘルペスと見分けがつきにくいことがあります。また、50歳以上の人は帯状疱疹後神経痛という合併症が発生するリスクが高まるため、早めに治療を受けることが重要です。症状が出た場合は、速やかにクリニックを受診するようにしましょう。

ヘルペスができる原因

ヘルペスは、顔や口周りに発症する「口唇ヘルペス」と、性器に症状が出る「性器ヘルペス」に大きく分けられます。ここでは、それぞれの原因について詳しく説明します。

口唇ヘルペスの原因

口唇ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)が原因です。このウイルスは主に唾液や皮膚との接触を通じて感染し、神経節に潜伏します。幼少期に感染しているケースが多く、その場合は症状が出ていなくてもウイルスが体内に存在しています。そして、免疫力の低下やホルモンバランスの乱れが引き金となり、ウイルスが再活性化することで症状が現れるのです。また、単純ヘルペスウイルス1型は口内炎や咽頭炎にくわえて、まれにヘルペス脳炎などの深刻な症状を引き起こす場合もあるため、注意が必要です。

性器ヘルペスの原因

性器ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2)が原因で発症します。性行為による接触などによって感染し、太ももやお尻など、性器以外の部位で発症する可能性もあるため注意が必要です。なお、口唇ヘルペスを発症している人とオーラルセックスを行ったことが原因で、単純ヘルペスウイルス1型によって性器ヘルペスにかかるケースもあります。パートナーに口唇ヘルペスの症状が出ている場合は、キスや性行為などの接触を控えるようにしましょう。

帯状疱疹や水痘(みずぼうそう)を発症することもある

帯状疱疹や水痘(みずぼうそう)の発症は、水痘・帯状疱疹ウイルスが原因です。このウイルスはヘルペスウイルスの一種であり、幼少期に初感染することで水ぼうそうを引き起こします。また、水ぼうそうが治った後もウイルスは潜伏し続け、成人になってから再発した症状を帯状疱疹と呼びます。

口唇ヘルペスや性器ヘルペスは身体の一部に症状が現れるのに対し、帯状疱疹は神経に沿って帯状に症状が現れるのが大きな違いです。帯状疱疹は、特に50歳以上の人やストレスが溜まりやすい人が発症する可能性が高いため、症状が現れた場合は速やかにクリニックを受診しましょう。

ヘルペスウイルスの種類

ヘルペスは、ヘルペスウイルスに感染することで発症します。しかし、一口にヘルペスウイルスといっても複数の種類があり、ウイルスの種類によって引き起こされる感染症が異なるため注意が必要です。ヘルペスウイルスの主な種類は以下のとおりとなっています。

ヘルペスウイルスの種類 主な感染症
単純ヘルペスウイルス1型 口唇ヘルペス・性器ヘルペス
・ヘルペス性角膜炎・ヘルペス性歯肉口内炎
・ヘルペス性ひょう疽・カポジ水痘様発疹症
単純ヘルペスウイルス2型 性器ヘルペス・臀部ヘルペス
水痘・帯状疱疹ウイルス 水痘(水ぼうそう)・帯状疱疹

ヘルペスが再発する理由

ヘルペスが再発する理由

ヘルペスは、一度感染すると体内にウイルスが潜伏し、免疫力が低下した際に再発するという特徴があります。ヘルペスの再発を防ぐために、原因や再発防止のポイントを確認しておきましょう。

ヘルペスの再発につながる原因

ヘルペスウイルスが一度体内に入ると、ウイルスは神経節に潜伏します。身体が健康な状態であればヘルペスウイルスを抑えられるのですが、以下のような原因で免疫力が低下するとウイルスが再活性化し、ヘルペスの再発につながってしまうのです。

忙しくてしっかり睡眠をとれていない
仕事や勉強でストレスを抱えている
風邪で体調を崩してしまった
生理によるホルモンバランスの乱れ
不規則な生活習慣
季節の変わり目で体調管理が難しい

ヘルペスの再発を防ぐためのポイント

ヘルペスは、身体の免疫力が低下したタイミングで再発しやすい疾患です。そのため、日頃から身体に負担をかけすぎないよう意識して生活することが重要といえます。具体的には、以下のようなポイントに注意しましょう。

食事や睡眠時間を改善して規則正しい生活を行う
適度にストレスを発散する
皮膚にストレスがかからないよう紫外線対策を徹底する
生理前・生理中は無理なく過ごす
体調を崩したらしっかり休む

ヘルペスは再発しても自然に治りますが、頻繁に再発を繰り返すと症状が重くなる傾向にあります。水ぶくれができた部分が傷跡として残ってしまう場合もあるため、ヘルペスの再発を防ぐために免疫力を高める努力をしましょう。

ヘルペスは人にうつる?

ヘルペスウイルスは、接触することで人にうつってしまいます。ヘルペスに感染している人と食器やタオルを一緒に使ったり、キスや性行為をしたりすることでうつる場合があるため注意が必要です。特に、ヘルペスの症状が発生している時はうつる可能性が高くなります。そのため、使用する食器やタオルを分け、少なくとも症状が落ち着くまではキスや性行為などの接触を控えるようにしましょう。

ヘルペスの予防・対処法

ヘルペスは、適切に対処することで再発や悪化を防ぐことができます。ここでは、ヘルペスの予防法や対処法を確認していきましょう。

ヘルペスの予防法

ヘルペスの症状が現れる大きな原因は、免疫力の低下です。そのため、日頃から疲労やストレスを溜め込みすぎないように意識して生活することが重要となります。また、ヘルペスは人にうつるため、家族間でも使用する食器やタオルを分け、こまめに手を洗って清潔に保つことが大切です。自分自身にヘルペスの症状が出ている場合は患部に触れないようにするなど、他者に感染しないよう注意しましょう。

ヘルペスができてしまった場合の対処法

ヘルペスの症状が現れる際は、唇がピリピリするなどの前兆があります。そのため、ヘルペスの前兆があった時点で対処することができれば、症状を最小限に抑えられる可能性が高くなります。口周りや性器に違和感が出た場合は、速やかにクリニックを受診しましょう。

なお、口唇ヘルペスが再発した場合、市販薬でも対処することは可能です。ただし、市販薬を使用するには、クリニックで口唇ヘルペスと診断されたことがあり、診断時と同じ症状が再発した場合に限られます。前回と症状が異なる場合や、市販薬を使用しても症状が回復しない場合は、速やかに医師に相談してください。

ヘルペスの診断・検査

視診
触診

口唇ヘルペスや性器ヘルペスの症状は、他の症状が似た病気と間違われる場合があります。例えば、身体の片側に帯状の発疹が出ている場合は、ヘルペスではなく帯状疱疹の可能性が高いです。その他にも似た症状の病気があるため、クリニックでしっかりと診断を受けることをおすすめします。

ヘルペスの治療方法

抗ウイルス薬
外用薬
点滴

ヘルペスの治療は、基本的に抗ウイルス薬によって行います。「バラシクロビル」や「ファムシクロビル」などの抗ウイルス薬を飲むことで、ヘルペスウイルスの活性化を抑えることが可能です。そのため、抗ウイルス薬はヘルペスの前兆が現れた段階で服用し始めるのが効果的といえます。

また、軽症の場合は外用薬を患部に塗布することで改善できる場合があります。外用薬はドラッグストアでも販売されているため、すぐにクリニックを受診できない場合に備えて準備しておくと良いでしょう。なお、ヘルペスが重症化してしまった場合は、抗ウイルス薬の点滴による治療が必要なこともあります。重症化を防ぐためには、できる限り早い段階でクリニックを受診し、早期治療を行うことが大切です。

注意事項

  • 水ぶくれの中には多くのウイルスがいるため潰さない

  • 患部には極力触れず、触れてしまった場合はすぐに手を洗う

  • 食器やタオルは分けて使う

  • キスや性行為などの接触を避ける

  • 紫外線対策を徹底する

  • 薬の用量・用法を守る

よくある質問

ヘルペスと帯状疱疹は、原因となるヘルペスウイルスの種類が異なります。口唇ヘルペスや性器ヘルペスは単純ヘルペスウイルスが原因ですが、帯状疱疹の原因は水痘・帯状疱疹ウイルスです。また、口唇ヘルペスや性器ヘルペスは身体の一部分に症状が出ることが多いのに対し、帯状疱疹は身体の片側に帯状に現れます。症状が現れる部位によってヘルペスと帯状疱疹の判断が難しい場合もあるため、気になる方はお気軽に当院までご相談ください。
口内炎にはさまざまな種類があり、口唇ヘルペスは口内炎の一種です。口内炎はヘルペス性口内炎とアフタ性口内炎に大別されており、症状によって原因や予防法が異なります。口内炎に悩んでいる方は、早めにクリニックを受診して原因を特定しましょう。
ヘルペスの治療は、基本的に皮膚科で行います。症状によっては内科や婦人科の受診が必要な場合もありますが、まずは皮膚科を受診することをおすすめします。
ヘルペスウイルスは、キスや性行為などで直接接触した場合だけでなく、同じ食器やタオルを使用することで感染する場合があります。ヘルペスウイルスは非常に感染力が強いため、症状が現れている間は特に注意が必要です。
市販のリップクリームの使用は避けることをおすすめします。唇を保湿したい場合は、クリニックで処方された保湿剤を使用しましょう。
ヘルペスの症状が軽い場合、市販の外用薬で改善できる場合があります。市販薬を使用する場合は、薬剤師の説明をしっかりと聞いたうえで塗布するようにしましょう。ただし、市販薬を5日以上使用しても症状が改善しない場合は、速やかにクリニックを受診することをおすすめします。
ヘルペスの治療に用いる抗ウイルス薬は、ヘルペスウイルスの増殖を抑える効果があります。そのため、ヘルペスの再発を防ぐ効果も見込めるでしょう。しかし、現在の治療法ではヘルペスウイルスを完全に排除することはできないため、免疫力が低下すると再発するおそれがあります。疲労やストレスなど、免疫力の低下につながる要因に注意しながら日々生活し、もしヘルペスが再発する前兆が現れたら、早急に対処することが重要といえるでしょう。