帯状疱疹(たいじょうほうしん)とは

帯状疱疹は、水痘帯状疱疹ウイルスによって引き起こされる皮膚疾患です。水ぼうそうと同じウイルスで、体内の神経に潜伏していたウイルスが活性化することで発症します。体の左右どちらか一方に症状が現れ、3〜4週間ほど続きます。帯状疱疹は水ぼうそうと同じウイルスが原因のため、過去に水ぼうそうにかかったことのある人は誰でも発症する可能性があります。また、高齢になるほど発症率が高くなるのが特徴です。

帯状疱疹の症状・特徴

上記のような症状に当てはまる場合は帯状疱疹の可能性があります。初期は痛みが数日〜10日程度続き、その後皮膚症状が現れ痛みが強くなっていきます。

1.帯状疱疹の症状の変化〜初期症状は皮膚の違和感・かゆみ・痛み〜

①皮膚の痛み(ズキズキ・ヒリヒリとした痛み)

②皮膚症状+皮膚の痛み(赤い斑点や水ぶくれが神経に沿って帯状に現れ、ピリピリと刺すような痛みが生じる)

③皮膚のただれ(水ぶくれが破れて皮膚がただれた状態になる)

④かさぶたができ、症状がおさまる

帯状疱疹は上記のように症状が変化し治っていきます。 帯状疱疹を発症すると、まず皮膚に違和感が生じます。皮膚の違和感・かゆみ・痺れ、ピリピリ・ズキズキ・チクチクといった痛み、針で刺されるような痛み、焼けるような痛みなど、痛みの感じ方は人それぞれです。 これらの前兆が現れた後皮膚症状が出現し、赤い発疹や水ぶくれが帯状に現れ痛みが徐々に強くなります。眠れないほど痛むこともあり、日常生活にも支障が出てしまう可能性があります。 水ぶくれが破れると皮膚にびらん(ただれた状態)ができ、かさぶたになることで症状が落ち着いていきます。 なお、このような痛みや皮膚症状は主に体の左右どちらか一方に起こります。痛みや皮膚症状が重症化すると入院が必要になるケースもあるため侮れない病気です。

2.発症年齢は50歳代以降が多い

発症年齢は50歳代以降が多い帯状疱疹は50歳代以降の発症率が高い病気です。最も多いのは60歳代となり、通常は人生で一度だけしか発症せず、2回目、3回目と再発を繰り返すことはほとんどありません。また、男性よりも女性のほうが患者数・発症率が高いというデータもあります。ただし、帯状疱疹は過労やストレスなどがきっかけで発症するため、20代や30代などの若い方の発症も珍しくありません。

3.80歳までに3人に1人が発症する

80 歳までに3人に1人が発症する帯状疱疹は50歳代から発症率が高くなりますが、80歳までに約3人に1人が発症するといわれています。それほど多くの方が悩まされる病気なのです。

4.上半身に発症する人が半数以上

上半身に発症する人が半数以上帯状疱疹は体のどちらか片方に発症しますが、特に上半身に発症することが多いです。部位ごとの発症率を見てみると、80%以上が上半身に発症することがわかります。

5.合併症(後遺症)が起こるケースもある

帯状疱疹には合併症(後遺症)が起こるケースがあります。いくつかの合併症の中でも特に多いのが「帯状疱疹後神経痛(PHN)」です。この合併症は帯状疱疹が治った後も痛みが続き、ひどい場合は年単位で痛みが継続します。

<帯状疱疹後神経痛(PHN:Post Herpetic Neuralgia)>

合併症(後遺症)が起こるケースもある帯状疱疹後神経痛は神経の炎症によって神経自身が損傷し、なかなか修復されないことで痛みが続く現象です。帯状疱疹を発症してから3〜6ヶ月ほど、長い場合は年単位で痛みが続くこともあり、50歳代以上の約2割が帯状疱疹後神経痛に移行するといわれています。年齢が高いほど移行率も高くなり、早期発見・早期治療が重要です。なお、帯状疱疹後神経痛の痛みは下記のように表現されます。

など

また「アロディニア」と呼ばれる感覚異常を起こすこともあり、皮膚に軽く衣服が触れただけでも痛みを感じ、日常生活に支障をきたしてしまいます。 また、帯状疱疹には他にもさまざまな合併症があります。

ハント症候群 めまい、耳鳴り、顔面神経麻痺、難聴など
眼合併症 結膜炎、角膜炎、ぶどう膜炎など
中枢神経系合併症 脳炎、無菌性髄膜炎、脊髄炎など
末梢運動神経障害 筋萎縮、運動麻痺、膀胱・直腸障害など
播種性帯状疱疹 肺炎、脳炎、肝炎など

眼の合併症やめまい、耳鳴りだけでなく、顔面神経麻痺や難聴などの重篤な合併症が起こる可能性があります。特に首から上(脳・目を除く)の帯状疱疹には注意が必要です。

帯状疱疹の原因

帯状疱疹が起こる原因とその仕組みについて見ていきましょう。

1.水ぼうそうと同じウイルスが原因

水ぼうそうと同じウイルスが原因帯状疱疹は「水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルス」に感染することで起こります。これはヘルペスウイルスの一種で、初めて感染した際は水ぼうそうとして発症します。 水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルスは、一度感染すると体内の神経節に潜伏してしまいます。その後何らかのきっかけによってウイルスが再活性化し、帯状疱疹として発症するのです。 帯状疱疹は水ぼうそうと同じウイルスが原因となるため、過去に水ぼうそうにかかった方は誰でも発症する可能性があります。

2.帯状疱疹が起こるメカニズム

帯状疱疹が起こるメカニズムについて詳しく見ていきましょう。

①「水ぼうそう」を発症

帯状疱疹が起こるメカニズム①「水ぼうそう」を発症水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルスに初めて感染すると、水ぼうそうを発症します。子どもだけでなく大人でも発症し、大人の場合は重症化しやすいのが特徴です。

②潜伏期間

帯状疱疹が起こるメカニズム ②潜伏期間水ぼうそうが治っても、ウイルスは体内の神経節に潜伏してしまいます。普段は免疫力によってウイルスの活動は抑えられているため、長期間体内に潜むことになります。

③ストレス・加齢・過労などで免疫力が低下)

帯状疱疹が起こるメカニズム ③ストレス・加齢・過労などで免疫力が低下ストレスや加齢、過労などによって免疫力が低下すると、ウイルスが再び活性化してしまいます。

④「帯状疱疹」を発症

帯状疱疹が起こるメカニズム ④「帯状疱疹」を発症ウイルスは神経を伝って移動し皮膚に到達します。その結果帯状疱疹を発症してしまうのです。

3.日本の成人の約9割が帯状疱疹のウイルスを保持

日本の成人の約9割が帯状疱疹のウイルスを保持日本人のおよそ9割は水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルスを保持しているといわれています。ウイルスを保持している人の中には、子どもの頃に水ぼうそうを発症したことがある人だけでなく、発症していても自覚がなかった人もいるため、このように高い数字になっているのです。

4.帯状疱疹は感染する?

帯状疱疹は感染する?帯状疱疹の原因である「水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルス」自体はうつりますが、帯状疱疹が帯状疱疹としてうつることはありません。帯状疱疹は水ぼうそうにかかったことのない赤ちゃんや子どもなどに水ぼうそうとして感染する場合があります。 ◯水ぼうそう→水ぼうそう ◯帯状疱疹→水ぼうそう ✖️帯状疱疹→帯状疱疹 ✖️水ぼうそう→帯状疱疹

帯状疱疹の予防方法

帯状疱疹は予防できる病気です。予防方法は「予防接種」と「免疫力を下げない生活」の2つあります。

1.予防接種を受ける

50歳以上の方は帯状疱疹のワクチンを接種できます。ワクチンには2種類あり、細菌やウイルスに対する免疫力を高めることで発症や重症化を防ぐ効果が期待できます。

<生ワクチン>

帯状疱疹の原因となるウイルスや細菌の毒性を弱めたものを皮下注射(1回)によって接種します。

<不活化ワクチン>

帯状疱疹の原因となるウイルスのたんぱくの一部と免疫増強剤(アジュバント)を混ぜた物質を筋肉注射によって接種します。(2ヶ月間隔で2回)

過去に水ぼうそうにかかっている方は既に帯状疱疹ウイルスに対する免疫を持っていますが、年齢とともに免疫は弱まってしまいます。そのため、ワクチン接種によって免疫を強化することで帯状疱疹の発症を予防できるのです。 帯状疱疹ワクチンは100%発症を予防するものではありませんが、発症しても軽症ですむという報告があるため、50歳以降の方は接種しておいたほうがよいでしょう。

2.免疫力を低下させない生活

帯状疱疹を発症するきっかけは「免疫力の低下」です。そのため、帯状疱疹の発症を防ぐためには免疫力を低下させないよう生活習慣に気を配る必要があります。特に過労やストレスは免疫力を下げる引き金となるため、日頃から体調管理やストレス解消を心がけましょう。まずは食事と睡眠のバランスを整えるようにしてください。栄養バランスのとれた食事や質の高い睡眠が取れるよう、毎日の生活を見直してみましょう。

帯状疱疹になりやすい人

帯状疱疹になりやすい人帯状疱疹は水ぼうそうにかかったことのある人なら、誰でも発症する可能性がある病気です。しかし、全ての方が発症するわけではなく、発症しやすい人はいます。

1.50歳以上の方

帯状疱疹は50歳代から急激に発症率が高まります。ストレスや疲労による免疫力低下だけでなく、加齢も帯状疱疹を引き起こすきっかけとなるのです。50歳以上の方で体の左右どちらかにピリピリとした痛みや違和感がある場合は早めに病院を受診しましょう。帯状疱疹は早期発見、早期治療が重要です。

2.ストレスが溜まりやすい方

帯状疱疹は免疫力低下が発症のきっかけとなりますが、体調管理不足・不摂生・過労・人間関係などによるストレスが免疫力を下げることもあります。現代社会はストレスが溜まりやすい環境のため、自分なりのストレス解消方法を見つけておきましょう。

3.帯状疱疹チェックリスト

✓ 50歳以上 ✓ ストレスが溜まりやすい ✓ 不規則な生活をしている ✓ 免疫が低下する持病がある ✓ 免疫が低下する薬を服用している ✓ 水ぼうそうにかかったことがある ✓ ワクチンを接種していない 上記に当てはまる項目が多いほど帯状疱疹を発症する可能性が高くなります。50歳以上の方はワクチン接種ができるため、早めに医療機関に相談しましょう。

帯状疱疹と新型コロナウイルス感染症の関係

アメリカで2020年に実施された帯状疱疹に関する大規模観察研究によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が50歳以上の成人の帯状疱疹発症リスクを高める可能性があると報告されています。 参考:Bhavsar A. et al.: Open Forum Infectious Disease. 9(5), 2022, ofac118

帯状疱疹の診断・検査

帯状疱疹は基本的に医師の診察によって診断されます。痛みを感じる場所を確認し、体の左右どちらか片方に帯状の痛みを感じる場合は帯状疱疹を疑います。また、特徴的な水疱がみられる場合も帯状疱疹の可能性が高いでしょう。 稀にですが、帯状疱疹の診断を確定するために水疱のサンプルを採取することがあります。分析・皮膚生検によって帯状疱疹と確定させます。

帯状疱疹の治療方法

帯状疱疹はウイルスを抑える抗ウイルス薬と、痛み止めによって治療を行います。 抗ウイルス薬は「ファムシクロビル」や「バラシクロビル」などがよく使用され、特に免疫力が低下している方や高齢者に投与されることが多いです。また「アシクロビル」が処方されることもあります。これらの飲み薬は帯状疱疹の症状を和らげ、症状が続く期間を短くする効果が期待できます。ただし、水疱が出てから3日経過してから投与すると効かない可能性が高いため、できるだけ早く、可能なら水疱が現れる前に投与を開始する必要があります。 また、耳や眼に症状が現れている場合は耳鼻咽喉科や眼科など専門医の診察を受けるようにしてください。

診察の流れ

受付

問診票に必要事項をご記入ください。

診察

医師の診察を行います。

薬の処方

抗ウイルス薬や鎮痛剤を処方します。

注意事項

  • 症状が重度の場合は入院が必要なケースもある

    ・広範囲に皮膚病変が広がり、複数の神経領域にわたっている
    ・発熱がある
    ・合併症(顔面神経麻痺、内耳障害、味覚障害、膀胱直腸障害、髄膜炎・脳炎など)がある
    帯状疱疹は上記のような場合入院が必要になることがあります。

  • 痛みに対する治療について

    帯状疱疹の痛みに関しては鎮痛剤を用いて治療を行います。しかし、痛みが強く夜も眠れないなど日常生活に支障が出る場合は、神経ブロックと呼ばれる治療を行うケースもあります。また、合併症の帯状疱疹後神経痛を発症した場合、疼痛治療剤から保険適用のある薬剤が用いられることもあります。しかし、それでも痛みが軽減されない場合は麻薬性鎮痛薬を使用したり、神経ブロック注射やレーザー治療を加えたりする場合があります。

よくある質問

・水ぶくれを潰す
・水ぶくれ部位を冷やす
・水ぼうそうにかかったことのない人に近づく、触れる
・無理をする(仕事、レジャーなど)
・病院に行かない
帯状疱疹は水ぶくれを潰さないようにしましょう。不衛生な手で触ってしまうと細菌感染を引き起こす可能性があります。また、帯状疱疹は神経性の痛みのため冷やすと痛みが強くなる場合があるため、できるだけ温めるようにしましょう。帯状疱疹はうつる病気のため、水ぼうそうにかかったことのない人(特に子どもや妊娠中の女性)にはむやみに近づかないでください。妊婦が初めて水ぼうそうになると胎児に影響が出る場合があります。帯状疱疹で学校や仕事に行ってはいけないということはありませんが、1年以上痛みに苦しむ方もいらっしゃるため無理は禁物です。可能であれば休みましょう。なお、帯状疱疹は治療が遅くなると薬が効かなくなるため、早めに病院を受診するようにしてください。
帯状疱疹は内科でも診察できますが、皮膚の病気のためできれば皮膚科を受診しましょう。
帯状疱疹の痛みは1ヶ月以内に落ち着くことが多いですが、中には数ヶ月〜数年ほど痛みに悩まされる方もいらっしゃいます。
帯状疱疹の原因となる「水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルス」はヘルペスウイルスの一種です。ヘルペスウイルスにはさまざまな種類がありますが、人に感染するのは主に下記の3種類です。ウイルスの種類によって発症する病気が異なります。
・単純ヘルペスウイルスⅠ型:口唇ヘルペス、性器ヘルペスなど
・単純ヘルペスウイルスⅡ型:性器ヘルペス、臀部ヘルペス
・水痘(すいとう)・帯状疱疹ウイルス:水ぼうそう、帯状疱疹
帯状疱疹は市販の飲み薬や塗り薬で効くものはありません。軽症の場合は自然治癒することもありますが、頭痛や39度以上の発熱など全身症状が出てくるケースもあります。また、重症化すると失明や顔面麻痺を引き起こす可能性もあるため、できるだけ早く病院を受診しましょう。